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2019年01月30日 20時00分

「スポーツビジネスのトップランナーに聞く」 第5回:田宮直人さん(アルビレックス新潟シンガポール) <前編>

丁寧で礼儀正しく、落ち着いている。簡単に言うなら「しっかりした社会人」。田宮直人さんはそんな印象を与える人だ。実を言えば、田宮さんとは別の仕事でお会いしたことがあった。「アルビレックス新潟シンガポール」という、一風変わったサッカークラブのことも知っていた。

アルビレックス新潟シンガポールは、「日本人が運営して、日本人がプレーするクラブ」として、2004年からシンガポールリーグに参戦した。当初は日本の若手選手を育成するクラブという意味合いが強く、もっぱら興味本位の報道が先行していたことを覚えている。しかし、地道な運営が実を結び、2011年には初タイトルとなるリーグカップ優勝を達成。そして2016年からはリーグを3連覇している。

シンガポール屈指の強豪クラブとなり、それに伴ってアジア各国に展開する事業も波に乗った。売上高は約40億円。これはJ1の上位クラブに並ぶ事業規模だ。チームの成功だけでなく、ビジネス面の成功にも驚かされる。

株式会社フロムワンが運営するFROMONE SPORTS ACADEMYでは、2月8日(金)に田宮さんを招き、「海外におけるサッカービジネス」をテーマにしたセミナーを開催する。急成長するアジア市場で、彼らはどんなビジネスを展開しているのだろうか。まずは率直に聞いてみることにした。

 

田宮直人(たみや・なおと)さん
Albirex Singapore Pte. Ltd. Chief Strategy Officer

──僕は海外サッカー雑誌の編集なので、「アルビレックス新潟シンガポール」の存在は2004年の立ち上げの時から知っていたんですよね。Jリーグクラブのアルビレックス新潟と提携しながら、日本人の若い選手をシンガポールのリーグでプレーさせて、プロの厳しい環境で育成する、国際経験を積ませるというアイデアに感心しました。そのアルビレックス新潟シンガポールの中で、田宮さんはどういう立場なんですか?

田宮 ポジションで言うとCSO(チーフストラテジーオフィサー)という役職です。会社の戦略企画、経営企画、海外事業あとは新規事業の責任者ですね。

──ということは、チーム運営そのものにはあまり関わっていらっしゃらない?

田宮 そうですね。チームの強化とか、応援していただいているスポンサーさんのマネジメントとか、そういった部分には関わっていません。おかげさまで最近はずっと強いんですけれども、チームを中心としたサッカービジネスだけでは、いつ何があるかはわかりませんから。新しい企画を打ち出したり、新規事業を立ち上げたり、うまくリスク分散するための仕組みを戦略的に考えています。

──そうなんですね。リーグ3連覇というニュースはもちろん聞いてます。10年前ぐらいの状況を考えたら、本当に強豪になりましたね。

田宮 ありがとうございます。リーグのレギュレーションが変わったりして、厳しい状況もありましたけど、おかげさまで結果は残しています。毎シーズン、チームがひとつになって戦い、結果にうまく結びついています。

──で、ここからが本題です(笑)。田宮さんたちはサッカーチームだけでなくて、アルビレックス新潟シンガポールを中心としつつ、ミャンマーやマレーシアでもスクールを運営したり、各国でいろいろな事業を展開している。サッカークラブというより、ひとつの事業体ということですよね。チームのブランドを使いながら、様々な事業をすると。

田宮 「アルビレックス」というブランドをひとつのコミュニケーションツールとして使いながら、どうやって地域に貢献できるか、という考え方ですね。日本はこれから少子高齢化の時代を迎えて、若い人たちが海外に出ていく機会がどんどん増えていくと思うんです。そのために、日本人が行きやすい拠点のようなものを海外に作って、いろんな人に通過点として使ってもらえるような、そのルート作りをしてる感覚でしょうね。

──ある意味、サッカーはただの「きっかけ」というか。サッカーをとっかかりにして海外に行って、その先は現地で、いろいろなチャンスをつかめる。そこに「チャンスがある」という可能性を感じているわけですよね?

田宮 そうです。ミャンマーの例で言えば、現地でサッカースクールを運営しながら、耳の聞こえない子供たちが通う、ろう学校を支援しています。サッカーボールひとつあれば、チームワークを学べるし、相手の立場になってものを考える、絆を作る、教育的な側面がたくさんあるんですよね。そういう考えのもとに、ミャンマーに3校しかないろう学校のうちの1校を無償で支援して、デフサッカー(ろう者サッカー)のチームを作りました。2014年から活動を始めたんですが、2016年12月に行われたASEAN地域のデフサッカー大会には、そのチームがミャンマー代表として出場したんです。

アルビレックス新潟シンガポールは2016年、2017年、2018年と国内リーグ3連覇を果たした

──それはすごいですね。ビジネスと地域貢献がリンクした幸福なケースというか。

田宮 我々の活動の意義はそこにあると思いますね。純粋に「サッカー」をキーワードにして、いろんな人の思いがつながる。それがミャンマー国民を動かしていって、結果としてミャンマーの大手企業様にスポンサーという形で支えていただき、事業として成立するわけです。「サッカー」というキーワードで、実は国籍に関係なく、いろんなビジネスができるんだなと。それは本当に体感しています。

──実はこのインタビューシリーズでいろんな方にお話を聞いているんですが、みなさんそこは共通していますね。サッカー、あるいはスポーツというのは、世界のどこに行っても通じると。そうすると、サッカーはひとつのきっかけなんだけれども、世界各地にいろんなビジネスの可能性があって、もちろんアジアにもたくさんチャンスがある。ちょっと漠然と話してますけど(笑)、そういうことですよね?

田宮 そうですね。本当にいろいろなストーリーが描けると思います。そこがめちゃくちゃおもしろいんですよ。

──アルビレックス新潟シンガポールはチームもかなり強いですけど、ビジネス面も非常にうまくいっているという話も聞いています。

田宮 おかげさまで2009年からずっと黒字が続いています。シンガポールに限定しても、プロサッカーチームと、サッカースクール、チアスクールと、あとはカジノも運営しています。これは何かと言うと、シンガポールにはカジノがあるんですね。ラスベガスほどではないですが、外国人観光客を集めるための大型カジノがある。なので外国人はパスポートを持っていけば入れるんですけど、シンガポールの人が行こうと思ったら1回あたり100ドル、日本円で8000円ぐらいを払わないと入れないんです。つまり、現地の人が制限される仕組みになっている。そこで、チームのクラブハウスの中にカジノを作って、地域の方に年会費10ドル、800円ぐらい払えば利用できるようにしているんです。

──すごいアイデアですね。日本の感覚だと「サッカークラブがカジノ?」と思ってしまいますけど。

田宮 そうですよね。でもシンガポール政府主導で取り組んでいる事業なんですよ。地域の人たちにとっては、サッカー観戦も娯楽ですし、カジノも娯楽ですから。一種の社会貢献の役割として認められているわけです。

──なるほど。僕もチームのことはある程度知っていたんですけど、「うまく続いているな」と思って見ていました。カジノもそうですが、要は地元の人々との関係性ですよね。コミュニティの中で信頼を得ていなければ、たぶん成り立たないビジネスだと思います。

田宮 我々のホームタウンはジュロンイーストエリアというところなんですが、地元との結びつきはかなり意識していますね。ホームスタジアムの来場者1名につき、1ドルを地域のコミュニティに寄付しています。それから、「スポーツディベロップメントファンド」という基金を作って、ホームタウンの子供たちを新潟に招待しています。新潟の新鮮な食べ物を味わったり、稲刈りを体験したり。つまり、子供たちがテレビや教科書で知る日本ではなく、ありのままの日本を体験して、それを自分たちのコミュニティに持ち帰ってもらう。アルビレックスは日本のクラブですから、「日本」をきちんと伝えるということも、自分たちの役割だと思っています。

──すごくいいアイデアだと思います。

田宮 もともとシンガポールリーグの中に、「日本人だけのプロチーム」として参加したわけですから、言ってみれば悪役だったんですよね(笑)。その中で、日本人である自分たちの存在意義を問いながら、そこに日本の若者たちが参加しやすいように。そこはかなり意識しながらやっていますね。

インタビュー後編はこちら

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